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〜 特 別 寄 稿 〜 土壌汚染対策法の施行後一年余が経過して |
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大阪産業大学 人間環境学部 教授 村岡 浩爾 |
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| 土壌汚染対策法(以下、法)が施行されて一年余が経過した。施行状態は順調と報じられ、事実、法の制定目的に合った対応が進んでいると思われる。今年2月15日現在で、法3条関係として有害物質使用特定施設の使用が廃止された件数は528件、このうち汚染状況調査の報告数が62件(同、実施中19件)、都道府県知事の確認により調査が猶予されたもの330件(同、手続き中65件)となっている。法4条関係の調査命令を発出した件数は3件、法5条関係で指定区域として指定された件数4件(うち指定解除1件)である。 特定施設の使用廃止件数は当初の予想よりやや少ないが、それはそれとして調査猶予件数がかなりの数に上っていること、指定区域の指定件数がそう多くはないことなどについて、どのような見方をするのかが注目される。またある政令都市の例で見ると、法施行後企業からの相談件数はかなりの数で、その件数は増加傾向とみられることなどから、法に対する認識は高いものの、応分の対応が可能かどうか確認する傾向にあると見られる。このことはまた、多くの法の解説書が出そろっているにも拘わらず、法の目的とする健康被害の影響を回避する対策と現実の汚染改善の方向とのすりあわせが不明瞭と見られる点で、企業、住民、地方自治体がそれぞれに問題を抱えているという見方もできる。このような状況の中で、今後の課題について述べてみる。 土壌汚染状況調査の機会の捉え方について考えてみよう。法においては、過去の有害物質による土壌汚染については、現時点で有害物質を使用していない限り、土壌汚染状況調査が義務づけられない場合がある。すなわち法3条の有害物質使用特定施設の廃止時調査だけで汚染が発見できない事例があり得ることである。これには同施設を法発端以前に廃止していて同施設以外で有害物質を使用している場合、使用履歴は不明だが土壌調査により汚染が判明する場合がある。このようなケースが生ずる原因には、一つには、水質汚濁防止法(以下、水濁法)で定義される施設(有害物質を製造または使用し、それを処理するための施設。法でも特定有害物質に対して同等)以外からも有害物質を排出する可能性があることである。下水道終末処理施設、し尿処理施設、汚水等を排出するバッチャープラント等にその可能性がある。また特定施設以外での有害物質を使用する工程が多岐にわたっており、水濁法に基づく特定施設での使用というわけではない場合がある。更に有害物質が水濁法の有害物質に指定された時期に係わる問題がある。例えばトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンが水濁法で有害物質に指定されたのは平成元年10月、これらを使用する一部の施設が平成3年10月に特定施設に指定された経緯があり、この間でこれらの物質を使用したとしても特定施設に当たらないことがある。 水濁法上の届出制度にも課題がある。届出時点で有害物質に指定されていなければ審査が緩くなる。また届出にない物質が施設から排出されても、廃水処理施設で適正に処理されておれば、排水取り締まりでは発覚しないこともあり得る。法上の調査は言うまでもなく汚染の発見と汚染の程度を知るためのものであり、未然防止はあくまでも大気汚染防止法と水濁法による規制で確立していると見なされるが、法のみの調査では法規制によらない汚染が徐々に拡散を続ける事態があり、未然に拡散を防ぐためにも調査のあり方を再整理する必要がある。 土壌汚染状況調査は土地の所有者等が行うのが法の規定であるが、汚染が判明するかどうかの段階における調査でもあり、その時点で調査費用を土地所有者が負担をすることについての理解が得られにくいことがある。したがってその場合の調査については、工場または事業場の設置者が何らかの関与をもつことについての検討があり得る。また、土壌汚染状況調査に関しては、特定施設の使用を廃止しても敷地を引き続き事業として使用する場合には調査の猶予が確認される。また、敷地面積が300m2以下であって、周辺での地下水利用が無い場合、含有試験のみが課せられるので、結果的には揮発性有機塩素化合物を使用する小規模企業は調査の対象外となる。また敷地周辺の井戸で有害物質が基準値以下で検出されたり、工場の排水から検出される筈のない有害物質が検出されても、法4条の要件に該当しなければ調査は行われない。以上のように、調査費用の負担者の理解が得られにくかったり調査の猶予や免除があることによって、人への健康保護への対応が遅れることがないかという点の検討が望まれる。事業者が猶予を受ける制度は汚染物質の人体への暴露の機構と操業の必要性・費用の負担とのバランスによって設定されたものであるが、事業者にとってもリスクが生ずることになる。早く見つけ、早く対応すればよいものを、後になって対応を迫られることは土地の正当な価値にも影響するはずであり、こういった場合の可能性から事業者に早い段階からの理解が必要であろう。 法に調査の猶予がある代わり、工場側の自主的な調査および管理が強調される点が法の特徴でもある。この場合、法的調査が行われないことによる汚染の拡大および新たな汚染の発生の可能性を、どの程度土地所有者等が管理し調査し得るか、そしてその報告をどういう形で行うかが検討されるべきである。また、有害物質の使用状況の把握について、PRTR法や他法令との整合性も図る必要がある。土壌環境を全般的に管理する立場にある地方自治体にしても、法の調査義務以外の土壌汚染関連調査、すなわち汚染土地周辺の土壌調査、地下水汚染の有無、井戸の利用状況の確認等、これらの結果をどのように公開していくべきか考える必要がある。 法では土壌汚染が存在する蓋然性が高く、かつ汚染土壌の人への暴露の可能性がある場合に調査命令が発せられるが、調査命令の要件に合わない土壌汚染もある。このような場合、汚染を放置すれば汚染が拡大する可能性もある。自主的取り組みに期待してもそのやり方が不適切であることもある。 法5条による指定区域からの汚染土壌の搬出については「指定区域から搬出する汚染土壌の取扱について(環境省告示)」により搬出先で汚染が拡大しないための適正処分が求められる。また指定区域以外の土地から搬出される汚染土壌の取扱については「指定区域以外の土地から搬出される汚染土壌の取扱指針(環境省水環境部長通知)」によって対応することになる。しかしながら法対象外の土地であって、前出の調査の機会を拡大した土地から判明した土壌汚染や自主調査等に係わって判明した土壌汚染に対する取り扱いについて、上記の告示や通知に準じた適正な処分を義務づけることが必要ではないか。更に土地の形質変更についても調査の機会拡大の対象となりうる土地において、土壌汚染状況調査の実施前であっても土地の形質変更を制限することも考えられる。 法では土壌汚染対策基金を設立し支援業務を行っている。法7条1項による措置命令を受けたものであって、汚染原因者でなく、かつ負担能力が乏しいと判断されて地方公共団体が助成を行った場合にその支援は活用される。従って被支援者は措置命令を受けていることが必須条件であるが、地方自治体の行政指導により自主的調査・対策を行うなどの事例もあり、このようなレベルでの支援制度の措置も考えていかなければならない。 法は一定の施行進行状態を示しているが、法による汚染と現実に生じている汚染、あるいは汚染の可能性の高い状態との間に、認識と対応の処理に未整理の課題を残している。以上に述べた事項のほかに、自然汚染に関する現実的な対応の困難性、軽油・重油による土壌汚染の新しい課題、ダイオキシン類の土壌汚染との関連、揮発性有機化合物の土壌から大気への移行問題等についても調査資料の充実と検討が必要である。また浄化技術の革新にはめざましいものがあるが、その進歩に対応した土壌汚染に関する基本的な考察事項も生じてこよう。 |
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