埋立地と土壌汚染

北海道大学大学院工学研究科
教授

田中 信寿

 最近、埋立地の安定化や土壌化について考えている。埋立地内はいずれ普通の土壌と同じもの、つまり、少々の異物感はあるが、汚濁や汚染を起こさないものになるべきだと考えている。歴史的に考えると、固形廃棄物は土中に埋められたり、河川に投棄されてきた。その場合、固形物中の生物分解性有機物は土中微生物により分解され、いずれ無機化して土壌化する。また固形物中の無機成分は通常存在する土壌的成分であり、塩類はいずれ溶解して海に戻る。そして、有害な重金属や化学物質は微量であり問題はなかった。しかし、近年、埋立地に廃棄物が大量かつ集中的に堆積され、また質的にも多様な化学物質を含む化学製品が投入されている。したがって現時点及び未来の埋立地の安定化、自然還元をどのように考えればよいのであろうか。


土壌環境保全から見た埋立地

 藤倉まなみ氏(環境庁土壌農薬課課長補佐)の論文「土壌環境の保全と埋立処分」(廃棄物学会誌、pp.138-146 1999)から抜粋すると、
1)廃棄物の処分を目的として、現にこれらを集積している最終処分場に係る土壌については土壌環境基準を適用しない(土壌環境基準第一の(3))。
2)埋立等の終了の後も引き続き一般環境から区別されている場合には、同様に当該施設に係る土壌には環境基準を適用しないこととしている(平成3年8月28日付け環水土第116号、環境庁水質保全局長通知)。
3)廃止後の最終処分場等の跡地であって、引き続き一般環境から区別されているものについては、土壌環境基準は適用されない。逆に言えば、掘削等による遮水工の破損や埋め立てされた廃棄物の攪乱等により一般環境から区別する機能を損なうような利用が行われる場合には、当該跡地に係る土壌に土壌環境基準が適用される。

 さて、埋立地には3つのコンセプトがあると私は考えている。@埋立地反応器コンセプト(Landfill Bioreactor;埋立地内での微生物による処理機能を最大化する)、A容器内封じ込めコンセプト(Containment;廃棄物を保管する機能を強化して汚染の外部への漏出を最小化する)、B最終安定物処分(Disposal of Final Inert State;土壌と同じ状態の安定化物にして処分する)である。上述の埋立地に対する土壌汚染適用の考え方は、Aの考え方がメインになっているようである。しかし、封じ込めればそれで済むのか、封じ込めに必要な情報を永久的に管理できるのか、などの課題がある。
 藤倉氏は、同論文の中で、「汚染土壌の対策について、浄化(重金属の分離または化合物の分離・分解)を行い、土壌としての機能を有するものはできるだけその機能を生かして利用することが望ましいが、少なくとも一般環境から隔離(封じ込め)が必要であるとしている。」と述べている。つまり、できるものなら、汚染土壌の修復を行うべきであるが、社会的経済的環境的条件の中で「封じ込め」も認めるということであろう。


埋立廃棄物の土壌化シナリオ


 埋立地廃止までは浸出水処理が行われ、また、一般環境から区別するために施工された遮水工や覆土が機能していなければならないのは当然である。さて、その後は、汚染土壌との関係でどのようなストーリーになるであろう。上記の通知によれば、(埋立地内土壌が汚染状態であっても)遮水工が壊れなければ、あるいは壊すような工事を行わない限り、汚染土壌基準を適用されることはない。しかし、表面遮水工に使用される遮水シート類も、底部土壌層も当然寿命がある。
 都市ごみ埋立地浸出水の時系列データをみると、重金属については埋立初期は環境基準を超える濃度値を示すが、いずれ環境基準以下になる。したがって、その時期が来れば、遮水工が破損しても地下水や公共の水域を汚染する恐れがなくなる。つまり、土中にある限り、地下水や公共水域を汚染することはないので、汚染土壌には該当せず、永久に情報を管理し封じ込めを継続する必要がないと考えたい。これが望ましいシナリオである。しかし、そのためには一定期間の降雨浸透水が必要であるし、その安定化機構についてはよく検討してみる必要がある。水溶性重金属がなくなったのか、土中にあって難溶性化して溶出してこないだけなのか、今後検討する必要がある。つまり、掘り起こせば汚染土壌となるのかどうかである。有機化学物質については、その分解時間が問題となる(基本的には廃油は埋立禁止になっている)。


次世代の埋立処分

 埋立地の安定化・土壌化(埋立地は汚染土壌の封じ込め場所ではない)という観点から言えば、掘り起こしても汚染土壌でない状態にしたいし、未来世代に負の遺産を残さないようにしたい。埋立処分せざるを得ない廃棄物が最小化される資源循環型社会における埋立地のあり方を考える必要がある。
一方、初めから、有害性のない状態で処分するのが、前述の最終安定化物処分コンセプトである。焼却灰の溶出試験を集めると、ほとんどの場合、鉛で土壌環境基準を超える。また、何らかの工事を行おうとするとき参考にする「土壌・地下水汚染の調査・対策指針」には、上回れば何らかの人為的負荷があるものとする含有量参考値から見ると、焼却灰は、カドミウムと鉛でその値を超えるものが多い。したがって、現在の都市ごみ処理プロセスからいうと、燃焼処理を機軸にする限り、焼却灰は最終安定化物ではない。もちろん焼却灰に対して簡単な前処理を行ってから埋め立てする方法もある。
 しかし、持続型社会では可能な限り、高コスト・高エネルギー投入型処理は避けたい。自然の力を利用する埋立地内での処理・保管機能を利用することをもっと追求する必要がある。土壌化しない成分は極力入れない、生物分解性成分や塩類などが無くなったときに掘り起こして安定化物のみを再度埋立処分するなどの工夫もあり得る。
今後どのようなコンセプトで埋立地を考えていくのか、総合的に考え、埋立物の選択を行っていく必要があると考えている。

今後もシリーズで官公庁等の研究所紹介を掲載していく予定です。